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本人の希望とは関係なく、あっちの百貨店こっちの百貨店へと飛ばされてしまう。
こうした労働条件のハードさ、待遇の低さから退職者は後を絶たず、またヘッドハンティング以外で同業他社に転職すると不利な条件が待ち受けている。
一からの出直しとなり、掃除や筆洗いなど雑務からスタートしなければならなくなるのだ。
それでも仕事を続けるのは、彼いわく「人をキレイにする仕事は楽しいから」。
ヘッドハンティングの可能性に賭けてカウンターに向かう美容部員たちの中から、固定客をつかみ、派遣された店の売り上げを伸ばし、ブランドの人気向上に貢献する、選ばれた美の伝道師が生まれていく。
店を持たない通販メーカーも百貨店の化粧品売場に触手を伸ばしている。
化粧品業界では、長らく通販メーカーは日陰の身だった。
商品を見ずに、また美容部員からのアドバイスなしで、肌に使う化粧品の購入には踏み切れない。
そんな抵抗感を持つ消費者は多かった。
どこかうさんくさいイメージがつきまとい、信頼性という点ではいま一つ。
カタログやインターネットを通してダイレクトに消費者に商品を販売する通販化粧品メーカーが積極的に小売りに乗り出した背景には、こうした負のイメージを払拭し、新規顧客を開拓したいという狙いがあった。
先陣を切ったのが、無添加化粧品で人気のファンケルだ。
95年に静岡に開いたアンテナショップを皮切りに直営店の数を増やし、百貨店を中心に100店以上を構えている。
美容部員を置き、商品の特徴である「無添加」の説明や、客の肌に合わせたアドバイスに力を入れることで、通販メーカーの利用に二の足を踏んでいた客を取り込んだのだ。
ファンケルの成功を見て、他の通販メーカーも後に続いた。
H研究所、E、O、D等といった面々だ。
もっとも、こうした通販メーカーが店を構えているのは駅ビルやショッピングセンターなどが多く、百貨店に出ているとしても地方百貨店というケースがほとんど。
誤解を恐れずに言えば、化粧品の売り場としてはやや「格下」感が否めない百貨店が大半だ。
一方、通販最大手のDHCは、直営店効果には脇目もふらず、コンビニに攻め込んだ。
98年にS限定で実験的に発売したスキンケアミニセットが好評を博したことから、翌年にはコンビニ向けに仕様を若干変更し、平均単価1000円のレギュラーサイズ、プチシリーズを投入。
ミニセット以上の成功をおさめた。
プチシジーズは99年の発売当初、Sの日商を約3000円押し上げたとされている。
Sの店舗数は約1万店。
1店当たりの売上げはわずかでも、トータルの売上げは大きい。
以前ほどの売上げの伸びが見られない同チェーンにとっても、ありがたい商材だ。
S限定だったプチシリーズKは、2002年からS(現サークルKS)やSなど他のコンビニチェーンでも購入できるようになった。
男性客が多く女性向きの店ではないと思われていたコンビニが、実は化粧品を売る有力な拠点であることをDHCは証明してみせたのだ。
DHCは、オリーブバージンオイルをメインに据えた商品戦略こそユニークだがでパッケージやロゴ、広告宣伝となるとあまり見るべきところはない。
何の変哲もない殺風景な容器、工夫の跡が見えないありきたりのロゴ、女性誌でどれだけ取り上げられたかを連呼するCMなど、正直なところ化粧品らしい華やかなイメージにはほど遠い。
だが、DHCはこの路線を変えることなく、小売り進出に当たっては、商品にふさわしいチャネルを選んだ。
コンビニに高級感漂う化粧品や美容部員の丁寧な接客を求める客はいないはずだ。
客単価は600円前後に過ぎず、客がコンビニに求めるのは結局のところ利便性や簡便性だ。
DHCは己を良く知っている。
銀座の力とにかく実店舗を出すことに重きを置いて出店を進めるのがファンケル型、低コストで実利を優先するのがDHC型だとすれば、後発のAコーポレーションはイメージ重視型の出店戦略を採っている。
同社は2003年から、プランタン銀座や高島屋大阪店など大都市の百貨店に的を絞り、ミュゼAという名称を掲げて高級感を打ち出す戦術に打って出た。
赤をアクセントにしたカウンターには、安っぽさはみじんもない。
百貨店に売り場を持つ通販メーカーの大半は自然派化粧品を主力としているせいか、白を基調にしたシンプルなイメージで売り場を演出しているのに対して、Aは外資系ブランドのようなゴージャス路線をひた走る。
九州で創業し、新聞に安手の折り込みチラシを入れていた時代を知る身としては、この大化けぶりはなんとも感慨深い。
ミュゼA銀座というショップ名と高級感漂う売り場を見る限りでは、まるで銀座発祥のブランドであるかのようだ。
演出次第で化粧品会社のイメージが一変することをまざまざと見せつけた。
化粧品メーカーには、なぜか「東京・銀座」を本社所在地とするところが多い。
「東京銀座・S」のフレーズでお馴染みのSはもちろんのこと、Aも訪問販売大手のノエビアも、コラーゲン配合の化粧品を手掛けるニッピビフーゲン化粧品も、本社は銀座だ。
自然派化粧品のVは本社こそ福岡だが、東京本部は銀座にある。
やはり自然派をうたうOは、低価格の衣料品や雑貨を扱う通販大手Bの子会社だが、Bの本社は埼玉県上尾市にあるのに、Oは銀座で設立されている。
本社を置かないまでも、ファンケルやドクターシーラボなど銀座に旗艦店を開く通販メーカーは多い。
東京の文化の中心地として栄え、高級ブランドの店が軒を連ねる銀座には、「二流」「上質」という言葉がどの地よりもふさわしい。
Sも「銀座発」だからこそ、トップメーカーにのしあがったとはいえないだろうか。
Aコーポレーションも、その例にならったと思われる。
百貨店への出店は、他の立地よりも経費がかかる。
店によっても異なるが、高いケースでは売上げ歩合で25%も持って行かれる。
それでも、百貨店出店によるメリットの方が大きいと判断したのだろう。
同社は毎年、前年比数十%増で売上げを伸ばしている。
売上げだけでいえば、この戦略は間違いではなかったようだ。
百貨店への出店を進める通販メーカーに対して、受けて立つ外資系ブランドや国内大手メーカーは、カウンターの内側に簡易なエステスペースを設け、自社化粧品を使った肌の手入れやマッサージを実施することで、固定ファンの囲い込みを図っている。
特に、百貨店以外に販売拠点を持たない外資系ブランドは必死だ。
都心の百貨店の化粧品バイヤーによれば、「以前は高飛車だとクレームが多かった外資系ブランドの美容部員も、ずいぷんと変わり、接客が丁寧になってきた。
客を離すまいと本部が指導を徹底しているのだろう」という。
百貨店も他のチャネルに客を奪われまいと、百貨店ならではの華やかさの演出に余念がない。
百貨店に勢力を伸ばす新興ブランドと、牙城を守りたい既存ブランド。
百貨店のカウンターを巡る戦いは熾烈な消耗戦ではあるが、利用者としてはサービス向上、選択肢の増加につながる歓迎すべき現象と言えなくもない。
化粧品を売るためには「仕掛け」が欠かせない。
優れた機能を備えている商品だからといって、必ずしも売れるとは限らない。
どんなに美容部員の接客技術が優れていても客がカウンターに来なければ、腕をふるいようがない。
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